Ren Design Studio

COLUMN

デザインに対する視点 鉄道車両の雨樋

E233系とE235系の雨樋 E233系とE235系の雨樋

デザインというものを意識するようになったのは中学生から高校生の頃だったと思う。
この形はカッコいい、この加工は綺麗だ、使いやすそうだ、などのような感覚を自覚したのはもっとはるか昔の子供の頃からだったように思う 。
私は子供の頃から鉄道ファンで、今も鉄道は大好きだ。特に車両は見ていて飽きない。全体の見た目、細部の部品の形状、制御機器の機能、機器の構成・性能など年齢を重ねるにつれ、デザイン(設計)という視点でも魅せられるようになっていった。

鉄道とデザインを考えると一般的な工業デザイン・プロダクトデザインの話になりそうだが、今回はデザインに対する私の視点・着眼点を取り上げたい。

今回例に挙げているのはJR東日本の京浜東北線と山手線の車両。(関東以外の方は馴染みがないかもしれないが…)その車両の細部の話。雨樋の話だ。雨樋なんて鉄道車両についているのかと思われる方もいるかもしれないが、もちろん昔から付いている。
2021年現在、京浜東北線はE233系1000番台という車両が使われている。山手線は最新鋭のE235系。実はこの2系列の雨樋のデザインには大きな違いがある。
車体の側面の最上部に雨樋があるが、国鉄時代からJRのE233系までは基本的には雨樋は車体側面よりも外側に突出している。数センチメートルだが外側に張り出している。この車両の横幅は2950mmだが、これは雨樋を含んでこの幅だ。
対して、山手線のE235系は一見すると雨樋がないように見える。側面がツルッと上まで1枚板として処理されている。車体断面を見るとわかるのだが、雨樋は車体の内側に納められている。車両の幅は同じく2950mm。
両形式とも床の部分の寸法は同じなので、E233系までは上に向かって窄まっている(台形状になっている)が、E235系では側面は真っ直ぐ上に垂直になっている。これは電車を利用する時には気が付かないだろう。だが、「無意識で感じる形状のスマートさ」という視点ではどうだろうか。随分と印象が違うのではないだろうか。
今まで何十年も国鉄時代から続いていた当たり前の「見た目」「デザイン」だが、外に出ていたものを内側に入れただけで、機能は損なわずに大幅に見た目や美しさを向上させている。少なくとも私にはそう感じる。JR東日本の車両以外では昔から雨樋を内側に入れていたり、屋根に設置して目立たなくするデザインが多数存在するが、JR東日本の車両ではE235系の登場まではほぼ皆無に等しかった。JR東日本の車両は京浜東北線用だけでも820輌、山手線は550輌もあり、他の路線も合わせれば数千輌。目にする機会は多い。

その意味で、E235系で採用されたデザインの変化は、全体から見れば小さな変化かもしれないし、鉄道に興味がない人からすればどうでも良いことに思えるかもしれないが、無意識に目にする光景が少しでも美しくより良いものへ変わっていくことは、とても嬉しく、楽しみなことだと思う。
私が今の仕事でデザインに関わる時には今回紹介したような視点が大いに影響している。

2021年2月19日 
文 : 東郷 洋

京浜東北線 E233系1000番台

京浜東北線 E233系1000番台

京浜東北線 E233系1000番台の雨樋 側面よりも外側に張り出している

山手線 E235系

山手線 E235系の雨樋 側面は上部まで平滑に処理されている